財務諸表で考えるティファニーの指輪の値段

約180年の歴史を持つティファニーは、陰りを見せているとはいえ未だに圧倒的な人気を持つ宝飾ブランドだ。数ある人気商品の中でもティファニーセッティングといえば、婚約指輪の定番中の定番だ。婚約指輪は男性の愛情を象徴し、金額の話をするのはあまり良くないことだという印象がある。

しかしそんなティファニーも会社である以上は利益を上げるのが目的だ。更には資金調達の為にニューヨーク証券取引所で株式公開している。そのおかげで、我々一般人もティファニーの財務諸表を簡単に読むことができる。

折角なので、今回はティファニーの財務諸表から分かる情報を元に、会計的(?)にティファニーの婚約指輪の値段を考えてみる。


下の表は、ティファニーの’16年度と’15年度の損益計算書の一部だ。ちなみにティファニーの年度は1月締めのようだ。クリスマス商戦がある宝飾ブランドとしては妥当なのかもしれない。










損益計算書を見ると、16年度の純売上は40億ドル、販売原価が15億ドル、そして販売費一般管理費が18億ドルであることが分かる。純売上から販売原価を抜いた粗利益は25億ドル(純売上の62.5%)で、そこからさらに販売費一般管理費を抜いた営業利益は7億ドル(純売上の18%)だ。

これだけ見ると、100万円の売上中、62.5万円がティファニーの粗利益になるということが分かる(かなり乱暴な考えだが)。シリコンバレーのハードウェア系テクノロジー起業でも60%以上の利益率があれば悪くない、といった感じなので、この数字は思ったより低くかった。なにはともあれ、宝飾ブランドの金銭事情なんて今まで考えもしなかったので、かなり新鮮だ。

更に財務諸表を読み進めると、商品カテゴリー別の純売上表を発見した。


世界全体でみると、婚約・結婚指輪の純売上はティファニー全体の売上の28%を占めるとのことだ。しかし日本だけで見ると、婚約・結婚指輪の純売上が日本全体の39%を占めるとわかる。日本の婚約指輪市場のティファニー人気を改めて感じさせるデータだ。

そして注釈を見ると、今年度に販売された婚約・結婚指輪の世界平均価格が約3,400ドルであることが分かる。過去2年間の経緯を見ると、約400ドルの減少傾向であるらしい。3,400ドルは2017年9月4日時点の為替で約37万円だ。もしこのブログ読んでいる貴方が37万円の婚約指輪を買えば、婚約指輪をティファニーで買った世界平均的な顧客層に入れるということだ。

財務諸表を更に読み進めると、地域別のデータが見れる。ティファニーの財務諸表では、日本は独立したセグメントとして扱われているようだ。セグメント開示という米国会計基準のルールがあり、細かい説明は難しい上につまらないので端折るが、大ざっぱに言うと、日本という市場がティファニーにとって重要であるため、投資家のために日本市場のデータを単体で開示する必要がある、とティファニーが判断したということだ。日本人としては中々気持ちが良い。




日本国内での純売上は6億ドルで、世界全体の15%だ。国単体の純売上としては一位の米国の16億ドル* (40%)に次ぐ規模であると予想できる。あくまで予想にとどまるのは、アジア太平洋圏の数字が理由だ。注釈b)を見ると、アジア太平洋圏の純売上は10億ドルで、そのうちの"半分以上"が中華地区から来るものだと書かれている。中華地区の定義は財務諸表上にないが、中国・台湾、時にはシンガポールを含む場合がある。財務諸表上で”半分以上”という表記の場合、50%以上、75%以下であることが多い。仮に60%とすると中華圏での純売上は大体6億ドルとなり、日本と同等のサイズとなる。もしティファニーの言う中華圏が複数の国で構成される場合、日本単体としての売上はやはり大きく、ティファニーにとって大事な市場であることが分かる、という訳だ。

*注釈a)にあるように、アメリカ大陸での純売上の88%(16億ドル)は米国内での数字であることが分かる。


営業利益のセグメント開示を見るとさらに面白い。上の表によると、日本での営業利益は純売上の約34%だ。これは他の地域に比べると約10%高い。販売原価や販売費一般管理費のセグメント開示は財務諸表に含まれておらず、残念ながらこれ以上の分析は出来ないが、考えられる理由としては以下の通りである。

1)(日本市場での)純売上に対する販売原価が低い:日本でのティファニー人気を考えると、他国の販売原価が高いというよりは、日本での販売価格が高い、というパターンが予想される。上記の平均価格の3,400ドル(37万円)の婚約指輪を日本で買いたい場合は、10%増しの3,740ドル(41万円)も払わないといけないことになる。ちょっと悲しい。

2)(日本市場での)販売費一般管理費が低い:費用が他国に比べて安いか、これまたブランド人気のために、販売費(広告費を含む)にあまりお金を掛けていない、等のパターンが予想される。日本は先進国だし、個人的にはたぶん後者だろうと思っている。

3)上記の両方:悲しさが増える。

理由はどうあれ、ティファニーの日本での営業利益率が他の地域に比べて約10%高いという事実は変わらない。その利益率を婚約指輪の利益率に投影するのは少々乱暴だが、財務諸表から読み取れる範囲だと日本でティファニーの婚約指輪を購入した場合、世界と比べて約10%割高である、となる。

検証ついでに、米国と日本のティファニーのウェブサイトでティファニーセッティングの指輪の値段を比較して、この投稿の終わりにしたい。結果(2017年9月4日時点)はある意味想像通りだが、財務諸表上のデータとは結構異なるので、ちょっとだけ消そうかなと思った。しかし頑張った時間が勿体ないので消すのはやめた。

日本価格―184万円



アメリカ価格―1万2,000ドル(2017年9月4日の為替で、約138万円)



差額は46万円で、日本価格はアメリカ価格の33パーセント増しだ。この値段の指輪をティファニーで買うなら、ニューヨークまで飛行機で行って、本店で買って帰ったほうが安上がりかもしれない。その情熱でプロポーズもきっと成功するだろう。

結構楽しかったので、次回は、リシュモン傘下の、カルティエの財務諸表を読んでみようと思う。(9月6日2017年追記ーリシュモンの財務諸表を読んだ結果、カルティエについてまったく面白い情報が載ってなかったので諦めました。カルティエを含む宝飾部門の粗利益率は約63%で、ティファニーと同じくらい、というかんじ。ただし部門売上は100億ドルで、ティファニーとは規模が違う。。。)

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